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メタトロン、ユダヤ教にとりいれられたミトラ神

         




メタトロン、ユダヤ教にとりいれられたミトラ神

名前、メタトロンの姿、起源と展開、経典、位置付け、権能、メタトロンとエノク、メタトロンとモーゼ、メタトロンとノア、メタトロンとダビデ王の盾、その他の伝承、カバラ、近代エソテリシズムについて

メタトロンは、ユダヤ教において、神そのものとも最高天使ともされる、まことに神秘的な存在である。

メタトロンは、ユダヤ教の中に定着したミトラであり、その信仰はキリスト教およびイスラームの一部宗派にも定着している。

その定着ぶりは、仏教の弥勒と同じくらい深く、かつ根本的なものである。

メタトロンは、ユダヤ教およびその神秘主義であるカバラだけでなく、ミトラ、弥勒の研究にも欠かせない、きわめて重要な存在である。

その詳細は日本にほとんど紹介されていない。

そこで、名前の由来、姿、起源、経典、権能、伝承、神秘主義など、メタトロンに関するさまざまな詳細情報を提供する。

七文字の名と六文字の名、ヤホエル、サンダルフォン、ミカエル、エノク、モーゼ、ノア、ダビデ王、カバラ、メルカバ神秘主義、ミトラ教、シーア派、仏教の弥勒信仰との共通性について、述べる。

メタトロン*の名の古形は、ミトラトン*あるいはミットロン*であり、ペルシアの神ミトラの名に由来する。
 
*メタトロン 〔ヘブライ語〕מטטרון、またはמיטטרון。〔英〕Metatron, Mitraton, Mithraton, Mittron。*ミトラトン 〔ヘブライ語〕מיטרטון。〔英〕Mitraton, Mithraton。*ミットロン 〔ヘブライ語〕מיטטרון。〔英語〕Mittron。

ギリシア語のメタスローノス*が語源であるとする説もあった。

しかし、ギリシア語の「メタ」をヘブライ語で「~の傍ら」「~にはべる」と解することはないこと、ギリシア語の「スローノス」を玉座の意味に使う事例がユダヤの伝統にいっさいないことから、ギリシア語による字解きの成立する余地はほとんどないというのが、今日の学者たちの一般的な見解である。

 末尾辞の意味、ユダヤ教では、天使の名前の末尾には、エル-elを付ける。

しかし、メタトロンとサンダルフォンだけは、このエルを付けず、代わりに秘教の神を意味する末尾辞オン-onを付ける。

二つの綴り、メタトロンの名には、二系統の綴りがある。

一方は七文字で、ミトラトン*/ミットロン*、もう一方は六文字でメタトロン*である。

七文字のメタトロンはアイン・ソフから生まれた最初の者(根元の大天使あるいはヤーウェの人格的な顕現)で、天地の創造者(創造神)である。

六文字のメタトロンは天上で変容したエノクの名である。

歴史的には、七文字のほうが先行する。

*ミトラトン 〔ヘブライ語〕ןוטרטמי。〔英〕MYTRTVN, Mitraton, Mithraton。七文字のラテン表記はMYTRTVN。*ミットロン 〔ヘブライ語〕מיטטרון。〔英語〕MYTTRVN, Mittron。七文字のラテン表記はMYTTRVN。ミトラトンの異記。*メタトロン 〔ヘブライ語〕מטטרון。〔英語〕MTTRVN, Metatron。六文字のラテン表記はMTTRVN。

尊称、顔の天使the Angel of the Face、臨在の主Lord of Presence、少年Na’ar、トーラーの主Lordof Torahと言う尊称を持つ。と言う別名がある。

「顔の天使」は、メタトロンが非人格的な至高神(アイン・ソフ)の人格的な現れであることを「顔」という言葉で表現した秘教的称号である。

ユダヤの秘教では、ズルワーンに相当するアイン・ソフを大ヤーウェGreater Yaweh、ミトラトンを小ヤーウェLesser Yahwehと言う。

トーラー*は、モーゼ五書*でメタトロンがモーゼ一行を守護して導いたことによる。

*トーラー 〔ヘブライ語〕תּוֹרָה。〔英〕Torah。*モーゼ五書 旧約聖書の『創世記』『出エジプト記』『レビ記』『民数記』『申命記』のこと。

メタトロンとミカエル、もともとメタトロンとミカエル*は、同一の天使であった。

メタトロン/ミットロンは秘教名(ミトラを想起させるペルシア風の名)で、ミカエルは一般名(ヘブライ風の名前)であった。

秘教派は、魔術(カルデアン・マギのわざ)の研鑽に励む集団で、クルド・イラン・カルデアの文化に親しく接していた。

それゆえ、メタトロンという名がミトラを語源とすること、ミカエルという名がそのヘブライ風の発音であることも知っていた。

しかし、一般のユダヤ人はこのような背景を知らず、ヘブライ語風のミカエルだけを使った。

そのため、次第に両者が同一の存在であるという知識が失われ、別個の天使であると誤解されるようになった。

 *ミカエル ガブリエル、ラファエルなど、天使の名前の語尾には「エル」がつく。

英語のMichaelや日本語の「ミカエル」もこの原則に沿うので、ミカエルも同様だと思いたくなるが、実際は違う。

ミカエルの原綴り(ヘブライ語とアラビア語)は、MKLあるいはMXRであり、「エル」はつかず、クルド語・ペルシア語におけるミトラの綴りMHRあるいはMXRと同じである。

メタトロンとヤーウェ、メタトロンはヤーウェそのものとも、小ヤーウェ(人間的な姿で現れたヤーウェ)であるとも言われといる。

その具体的な表現は、ヘレニズム時代の聖図像に見ることができる。

ヘレニズム時代のユダヤ人がヤーウェをヘレニズム的な太陽神ミトラ=アポロ=ヘーリオスと同一視していてことを示している。

ミトラの名のユダヤ風の発音がメタトロン(ミットロン)であるから、ヤーウェ=メタトロンであることを示している。

メタトロンの姿、『シウール・コーマー』の伝えるメタトロンの姿、『シウール・コーマー』は最初期の経典で、旧約聖書の『雅歌』5:10-16の「乙女の歌」がメタトロンの容姿を表しているとする。

以下は、その全文である。

わたしのいとしい人は、

赤銅色に輝き、

頭は、金、純金で

髪はふさふさと、カラスの羽のように黒い。

目は、水のほとりの鳩、

ミルクで身体を洗い、かたちよく座っている。

ほおは、香草の花を敷きつめたようで、芳しく茂っている。

唇は、ユリの花、ミルラのしずくをしたたらせる。

手は、タルシシュの宝石をはめた金の円筒、

胸は、サファイアをちりばめた象牙の板

脚は、純金の台の上に置かれた大理石の柱。

姿は、レバノンの山、レバノン杉のような若者。

その口は甘く、なにもかもすべてがわたしをひきつける。

エルサレムの乙女たちよ、

これがわたしの愛する人、これがわたしの慕う人。

火の身体、メタトロンの身体は、火のように燃えて光り輝いている。

筋肉は燃え上がる炎、骨はあかあかと燃える石炭、まつげは雷のひらめき、目は炎のトーチ、毛髪は炎、手足は燃える炎の翼のようである。

大きさ、メタトロンの身体は、幅も長さも世界そのものと同じくらい大きい。

七二の翼、メタトロンは、七二枚の翼を持つ。

万の目、メタトロンは、三六万五千個の目を持つ。

星をちりばめたマント、メタトロンのマントには、天界の光(星々)のすべてが埋め込まれている。

宝冠、メタトロンは、四九の宝石がはめこまれている王冠をかぶっている。

王冠の宝石は、そのひとつひとつが、まるで太陽のように輝いていて、その輝きは、世界の四隅にまで照らし出している。

起源と展開、起源について、ユダヤ人は、バビロンの捕囚時代586-538 B. C.に、イラン=クルドの宗教から多くの影響を受けた*。

このとき、ミトラをメタトロン/ミカエル/メシア、ズルワーン・アカラナをアイン・ソフとして取り入れた。

当初、メタトロン、ミカエル*、メシア*の区別はなかったが、次第に分化した*。

*イラン=クルドの宗教から多くの影響を受けた 『シウール・コーマー』に見られるようなかたちで、クルド・イランの「神人原像」の概念が、ユダヤの神秘主義に入ってきて多くの追従者を得た。

彼らは玉座の上に現れるメタトロンを神の現れと解釈し、『エゼキエル書』の記述や他のもろもろの思想・伝承と結びつけてメルカバ神秘主義を発達させていった。

*当初、メタトロン、ミカエル、メシアの区別はなかったが、次第に分化した 『バビロニアン・タルムード』Yevamot 16bにこのことを暗示する記述がある。

*ミカエル ⇒HP《七大天使の名前の由来》;HP《ミトラとキリスト(新版)》の「5.「キリストなるミトラ」成立の過程」の(1)キリスト神話が成立するまでの段階③

*メシア ⇒HP《ミトラとキリスト(新版)》の「5.「キリストなるミトラ」成立の過程」の(1)キリスト神話が成立するまでの段階

ミトラ、メタトロン、ミカエル、エノクをつなぐ資料
ミトラ、メタトロン、エノクをつなぐ資料がある。

それは、『コローニュ写本』の中に含まれている五冊の偽典黙示録である。

これらの偽典黙示録は、パレスチナからシリア・クルディスタン・イラクにかけてのグノーシス運動――東方ミトラ教(マニ教)に収束した運動で、ユダヤ教に密接にかかわっている――がつくりだしたものである。

この五冊はそれぞれ、アダム、セト(セテル)、エノシュ、シェム、エノクを主人公とするが、これらは次のような共通パターンを持っている。

リーヴズ『かの善き宗教の使者たち』第二部第三章~第七章。

『アダムの黙示録』ではバルサモスがアダムの前に現れ、『セトの黙示録』では光輝く天使がセトの前に現れ、『エノシュの黙示録』では生ける霊ミトラがエノシュの前に現れ、『シェムの黙示録』では生ける霊ミトラがシェムの前に現れ、『エノクの黙示録』ではミカエルがエノクの前に現れ、彼らを玉座の広間(ヘーハーロートの広間)に連れて行き、そこで奥義を授ける。

著者のリーヴズ教授(ノースカロライナ大学、専攻ユダヤ研究)は、この共通パターンを詳細に分析して、次のように結論付けている。

①上述のパターンは、メルカバの秘儀――修行者*がメルカバの戦車に乗って最高天にあるヘーハーロートの広間に上り、そこでメタトロンから奥義を授かる――に見られる秘儀パターンと一致している。

「カバラ」のメルカバの秘儀その1、その2

 *修行者 アダム、セト(セテル)、エノシュ、シェム、エノクにより象徴される。

②『コローニュ写本』の五つの偽典黙示録と『エチオピア語エノク書』『スラブ語エノク書』『ヘブライ語エノク書』を合わせて考えると、東方ミトラ教(マニ教)の生まれる前(三世紀より前)のパレスチナからシリア・クルディスタン・イラクにかけてのグノーシス運動――ユダヤ教に密接にかかわる――では、すでに生ける霊=ミトラ=ミカエル=メタトロンであったことを文献的に裏付けることができる。

③生ける霊=ミトラ=ミカエル=メタトロンは、グノーシス運動がご都合主義でつくりだしたのではなく、それ以前に下地があった。

それはバビロンの捕囚にまでさかのぼる。

エノク書におけるクルド=イラン文化の影響、エノク書(『エチオピア語エノク書』『スラブ語エノク書』『ヘブライ語エノク書』)は、クルド=イラン文化の影響を受けている。以下はその主要な部分である。

①『ヘブライ語エノク書』は、長さを測る単位としてパラサングparasangを使っている。

『ヘーハーロートの書』6, 17, 33, 38, 48C。パラサングはペルシア語で、1パラサングは3.88マイル(約5km)である。

チャールズワース編「第三エノク書」p260 n. h。

②『スラブ語エノク書』25-26によれば、神は天地創造の初めにおいて、アドイルとアルカスを呼び出して、アドイルには上に昇って天に、アルカスには下に降下して闇になるように命じている。

この部分は、ミトラ神話・ズルワーン神話・ヤズダン教における世界卵からの世界創造の翻案である。

『ケウル-ミトラ聖典』の「ダウル記1」1-2;「ダウル記2」2

③『エチオピア語エノク書』72-82(天文の書)は、ペルシア時代、遅くともヘレニズム時代初期に成立している。

日本聖書学研究所編『聖書外典偽典4旧約偽典Ⅱ』p164。『エチオピア語エノク書』37-71(たとえの書)――メシア論を説く部分――は前105-64年頃に成立したとされるので、キリストなるミトラと同時期に同じ地域で成立したことになる。

チャールズワース編「第一エノク書」p7;HP《ミトラ教研究.ミトラとキリスト(新版)》。同様のことが『スラブ語エノク書』72(メルキゼデクに関する予言)にも言える。

展開について

前六世紀から西暦0年まで

ヘレニズム時代におけるユダヤ教とミトラ教の結び付きはきわめて強く、西方ミトラ教の祭司団は、マギとラビ*の混成だという記録もある。

シリア内陸部のドゥラ・ユーロポス寺院には、ヤーウェを太陽神ミトラと同一視した壁画やユダヤ教と西方ミトラ教の入り混じった祭司団の壁画もある。

グッドイナフ『グレコ=ローマン時代におけるユダヤ教の象徴』Ch. 4; fig. 36, 53, 54。

この時代のパレスチナからシリアにかけての地域には、ヤーウェ=ミトラ=メタトロンを最高神とする信仰がユダヤ人、クルド・イラン人の双方にまたがって広がっていたと考えるのが自然である。

西暦0年から200年まで

ミトラをヤーウェと同一視する集団は、メタトロン信仰とメタトロン神秘主義(メルカバ神秘主義)を発達させた。

ミトラをメシアと同一視する人々は、メシアをキリストと呼び変えて、「キリストなるミトラ」の信仰を広めた。

メタトロン信仰に関しては、次のような二つの動きが顕在化した。

第一は、保守派の動きで、彼らはユダヤ教の枠内にメタトロン信仰をとどめおこうとして、エノク伝承を形成した。

第二は、秘教派の動きで、彼らは純粋な魔術の探求に進み、七文字のメタトロン(ミットロン)の秘儀(メルカバの秘儀)を形成した。

このユダヤ秘教派と密接に連動するように、パレスチナからシリア・クルディスタン・イラクにかけてのグノーシス運動の中で、ミトラ=メタトロン=ミカエルを秘儀伝授者とする偽典黙示録がつくられた。

200年以降

200年以後、ユダヤ教の内部で保守派と秘教派はそれぞれの道を進んだ。

しかし、中世(十二世紀)になるとカバラが確立され、両者の伝承・教義は融合していった。

カバラの中でメタトロン神秘主義(メルカバ神秘主義)は最高の奥儀とされ、師から弟子へと口伝で、しかも学識ある者の間でのみ伝えられるようになった。

一般的な信仰も神秘主義もともに、いまも盛んで、各地のシナゴーグ(ユダヤ教の寺院)で祀られている。

メタトロンが神(ヤーウェ)なのか、それとも大天使なのかについては、いまもあえて結論を出すことはせず、最高の神秘とされている。

経典について

ヘーハーロート*の書 Sêpher Hêhâlôt (別名ヘブライ語エノク書)、ヘーハーロート大全 Hêhâlôt Rabatti、ヘーハーロート小論 Hêhâlôt Zûtartî、ヘーハーロート・ゲニザ断片 Geniza Fragments of Hêhâlôt、シウール・コーマー Ši’ûr Qômâh、メルカバのわざ Ma’aseh Merkâbâh、光輝の書(ゾーハル) Zohar、エチオピア語エノク書(第1エノク書) The Ethiopia Book of Enoch、スラブ語エノク書(第2エノク書) The Slavonic Book of Enoch、ヘブライ語エノク書(第3エノク書) The Hebrew Book of Enoch、タルムード Talmud、ユダヤ神秘伝承 『ラビ・アキバのハブダーラー』など、『コローニュ写本』に含まれる五つの偽典黙示録、アダムの黙示録 Apocalypse of Adam、セトの黙示録 Apocalypse of Seth、エノシュの黙示録 Apocalypse of Enosh、シェムの黙示録 Apocalypse of Shem、エノクの黙示録 Apocalypse of Enoch

位置付け、神の化身について

メタトロンは小ヤーウェ、すなわち神の化身である。

正確に言えば、メタトロンは天使ではなく、天使王である。

ユダヤの秘教(メタトロン神秘主義)によれば、神ヤーウェ(アイン・ソフ)は目に見えず、かたちもない。

このような神の人間的な表れがメタトロンである。

アイン・ソフは神の潜在相(目に見えない姿)で、メタトロンはその顕現相なので、アイン・ソフを大ヤーウェ、メタトロンを小ヤーウェと言う。

次の二つは、メタトロンが神の化身であることの根拠とされる根拠である。

カバラ数秘術、メタトロンの名は、ユダヤ数秘術ゲマトリアによれば、シャッダイ(全能の神の意)に等しい。

それゆえ、メタトロンは神である、カラ派の律法学者キルキサニの『タルムード』。

経典の記述、神ヤーウェは、最高天に住む者すべてを集めて、メタトロンが小ヤーウェ*であると宣言した。

『ヘブライ語エノク書』12:5;カラ派の律法学者キルキサニの『タルムード』。

アイン・ソフとメタトロンは一体(同一)であり、ただその相が異なるだけである。

しかし、秘教に詳しくない者の中には、両者が別物であると誤解する者も多かった。

次の記述は、このような誤解の典型である。

タルムードによれば、エリシャ・ベン・アブヤ*は天国に行き、そこでメタトロンに会った。

メタトロンは玉座に座っていた。

ユダヤの伝統によれば、玉座に座ってよいのは神ヤーウェだけであったので、エリシャはメタトロンが神であると思い、「天界には二人の最高神(主神)がいる」と言った。

『バビロニアン・タルムード』Hagia 15a;『ヘブライ語エノク書』16

このような誤解を解くために、上述の記述には、後世に次のような記述が付け加えられた。

①メタトロンは天の書記なので、玉座に座ることが許されている。

『バビロニアン・タルムード』Hagia 15a

②メタトロンが最高神ではなく、最高の天使であることを示すために、神ヤーウェはアナフィエルに命じて、火の杖でメタトロンを60回打たせた。

『ヘブライ語エノク書』16

③アナフィエルは、メタトロンのことであると記されている。

『ヘーハーロート大全』;ダヴィドスン『天使の辞典』の「アナフィエル」の項。

①は、アイン・ソフとメタトロンが別個の存在であると考えた場合の弁明である。

②は、ミトラ教の影響を排除するためにユダヤ教の保守派のおこなった加筆である。

③は、この加筆をひっくりかえすために秘教派のおこなった加筆である。

これらは、メタトロン神秘主義の発達過程において、ユダヤの保守派と秘教派の間に激しい抗争があったことを示している。

*小ヤーウェ the lesser YHVH。*エリシャ・ベン・アブヤ 〔ヘブライ語〕אלישע בן אבויה。〔英〕Elisha ben Abuyah (Acher)。西暦前70年以前頃。

ロゴス、メタトロンは、ロゴス(言霊)、すなわち、神だけが持つ奇跡の力、すなわち存在喚起力*(万物を存在させる力)そのものである。

それゆえ、天地創造はメタトロンの仕事である。

存在喚起力は、「夢は必ず実現する」と信じることで奇跡を引き起こす。

それゆえ、願望実現の力とも呼ばれ、ユダヤの秘教派の人すべてにとって魔術力の源泉である。

以下は、いま述べたことを少し別のかたちで表現したものである。

七文字のメタトロン(ミットロン)の教義によれば、無限・無形のアイン・ソフは天地創造をおこなうときには、その一面を変化させて、メタトロン(ミットロン)として顕現する。

無限・無形のままでは、有限・有形のものの世界(有象世界)との接点がないからである。

メタトロンは、アイン・ソフのロゴス(言霊)そのものであり、燃える火のような存在、2.メタトロンの身体であるが、人間的な姿をとることができる。

ここに示したロゴスの教義は、『ヨハネによる福音書』1:1-1-5にも継承されており、「ロゴス(言霊)がこの世に来てキリストになった」という言葉は、メタトロン(=ミトラ)がキリストになったという解釈につながっている。

HP《ミトラとキリスト(新版)》の「5.「キリストなるミトラ」成立の過程」;『シークレット・ドクトリンを読む』【訳者解説】▼光線p53-54。

 *存在喚起力 そんざいかんきりょく。存在喚起力には、自己の同一性を保存する力(曼荼羅的な統合力)が含まれている。

これは、自分らしさ(自分の独自性)を保つ力、かたちが崩れないように保つ力のことである。

より専門的には、自己の恒常性を維持する力という。東方新智学では、カリマKalimatまたはアムル・ッラーAmr Allah、聖七文字QWNYQDRと言う。東方新智学の聖七文字は七文字のミットロンと結びついている。

七大天使は、聖七文字の化身であり、聖七文字のもつ神秘的な力の七つの側面の一つを各々が分有している。

 備考、カバラでは、アイン・ソフをアツィルト界、メタトロンをブリアー界と呼ぶ。

アツィルト界は神性界の意で、神(アイン・ソフ=大ヤーウェ)の内部世界を意味している。

ブリアー界は創造界の意で、存在喚起力により、万物を生み出すメタトロンの内部世界を、大天使たちはメタトロの分節化した姿(分身)を意味している。

神人同形論、ロゴスのところで説明したように、メタトロンは無限・無形なるアイン・ソフの持つ有限・有形なるものとの唯一の接点である。

このことは、有限・有形の人間がアイン・ソフにふれるには、メタトロンと神人合一の境地に入る以外に方法がないということを意味している。

ユダヤの秘教派によれば、メタトロンの姿、すなわち人間の姿というのは、有限・有形の世界において神のとり得る最高の姿である。

メタトロンと人間が同じ姿をしているのは偶然ではない。

人間はメタトロンを原像(モデル)として創造されたからである。

ユダヤの秘教派の考えによれば、人間がメタトロンを原像にしているのは、神が人間を自らの友として創造したからである。

人間だけが神(=メタトロン)と神人合一の境地に入れるのは、メタトロンが人間の原像だからである。

それゆえ、メタトロンとの神秘的合一を可能とするメタトロン神秘主義(別名をメルカバ神秘主義または玉座神秘主義)は、最高の奥儀である。

このような考え方を神人同形論*と言う。この神人同形論は、ミトラ教(ミール派イスラーム)、シーア派、スーフィズムとも共通する神秘思想*である。

備考、ここで述べた神人同形論は、ミトラ教、ヒンドゥー教、仏教に共通する梵我一如・神人合一*の思想のユダヤ版である。

 *神人同形論 しんじんどうけいろん。〔英〕、anthropomorphism。神を原像として人間が形成されたという理論のこと。

*ミトラ教(ミール派イスラーム)、シーア派、スーフィズム このような神人合一の境地に到達した存在をミトラ教ではミール(イマーム)、シーア派ではイマーム、スーフィズムではミールまたはバーブ(門の意)と呼んでいる。

この思想をさらに普遍化すると、仏教・ヒンドゥー教の梵我一如*という思想につながる。

 双子、ミドラシュ時代0-200 A. D.の資料によれば、メタトロンとサンダルフォンは双子、すなわち両者は同一存在の二相である。

メタトロンが兄、サンダルフォンが弟である。サンダルフォンを女天使とする伝承もある。

それゆえ、サンダルフォンは、女神シェキナー*と結びついている。メタトロンとサンダルフォンは、同一存在の表裏であり、分離して考えることはできない。

*シェキナー 〔ヘブライ語〕Shekinah。カバラに登場する女神で、雲となって神の玉座、あるいは生命の木のケテルをおおっている⇒『ヘブライ語エノク書』5, 7。

サンダルフォン Sandalphon。

〔字義〕 この名前は、ギリシア語のシナデルフォンΣυναδελφονから派生した言葉で、「兄弟」を意味する。

サンダルSandalは、まだ形のない胎児(幼胚)を意味する。

タルムード;箱埼『カバラ』p85;ダヴィドスン『天使の辞典』の「サンダルフォン」の項

〔無限の潜在力〕 サンダルフォンは、潜在する無限の力と可能性、無形であるが故にあらゆる形態をとることができる潜在力(可能性)を象徴する。

サンダルフォンは、胎児の性別を定める⇒アシアス「モーゼの啓示」。

〔偉大な天使〕 サンダルフォンは、悪ではない。

カバラとタルムードにおけるサンダルフォンは、サマエル(サタン)と戦い、あらゆるいのちを守る偉大な天使である。

タルムード;ダヴィドスン『天使の辞典』の「サンダルフォン」の項

〔生命の木〕 サンダルフォンはマルクトに位置付けられている。

フォーチュン『神秘のカバラー』p352。

〔伝承〕 以下はすべて、タルムードによる⇒箱埼総一『カバラ』p84-85。

(1)サンダルフォンは他の天使たちの上はるかに高くそびえ立っていた。

それは五百年の旅を必要とするほどの距離を持つ高さであった。

サンダルフォンの足が地面にふれているとき、彼の頭は聖なる生き物にまでとどいている。

彼は神の玉座の戦車の後ろに立ち、彼の主なる神に花冠を結び付けている。

(2)サンダルフォンは巨大な身体を持ち、世界の三分の一の大きさがある。

(3)『エゼキエル書』1:15における「四つの生き物そのおのに一つずつの輪がある」との記述は、サンダルフォンについて述べたものである。

(4)サンダルフォンとメタトロンの間は、五百年の旅を必要とするほど離れている。

(5)サンダルフォンは、人間の祈りの言葉を神の神秘的な冠(ケテル)の中に伝える仲介者である。

権能について、以下は、シュワルツの『ガブリエルの楽園』p24およびチャールズワースの「第三エノク書」解説による。

 (1)神意を受けとり、全天使を使ってそれを遂行すること。(神意を受け取れるのは、メタトロンただ一人である。)

(2)全天使を指揮監督すること。

(3)違反した天使を裁くこと。

(4)天界の宝を護ること。

(5)神意を記録すること。

(6)天の友(天界の祭司長)として人間を援助すること。

メタトロンとエノク、二人のメタトロンについて、ユダヤ伝承には二人のメタトロンがいる。

一方のメタトロンの名は七文字(מיטטרון)で、もう一方は六文字(מטטרון)である。七文字のメタトロンはアイン・ソフから生まれた最初の者(根元の大天使)で、六文字のメタトロンはエノクの変容した姿であるとされている。

アグリッパ『秘教哲学の三書』

『ヘブライ語エノク書』によれば、七文字のメタトロンはアイン・ソフから生まれた最初の者)つまりロゴス(言霊)である。

六文字のメタトロンは、『創世記』5:21-24に登場する賢者エノクである。

エノクは、365年の間、この世で神と共に歩み(生き)、その後、天に召されて、そこで変容しメタトロンになった人物である

『ヘブライ語エノク書』9:2–13:2;『創世記』5:21-24。

エノク伝承 その一、以下は、『創世記』5:21-24の記述である。

 エノクは六五歳になったとき、メトシェラをもうけた。

エノクは、メトシェラが生まれた後、三百年間を神と共に歩み、息子や娘をもうけた。

エノクは三六五年生きた。

エノクは神と共に歩み、神が取られたのでいなくなった。

エノク伝承 その二、以下は、五世紀のバビロニアとイスラエルの伝承である⇒シュワルツ『ガブリエルの楽園』p59-60。

神は天地を創造したとき、天地を聖なる光(無限光=アイン・ソフ・オウル)で満たした。

アダムとイヴは禁じられていた果実を食べたために、楽園を追放された。

その時、二人は聖なる光を失った。

この光をなくしたために、二人にとって世界は真っ暗になった。

聖なる光に比べたら、太陽の光ですら、ろうそくの光のごとくか細いものであったからである。

神は聖なる光の一部をツォハルという名の宝石に封入していたので、神は天使ラジエルに命じて、アダムに届けさせた。

アダムが寿命を終えるとき、この宝石を息子のセトに譲った。

その後も、代々受け継がれて、やがてエノクのものになった。エノクがその宝石の中をのぞき込むと、そこには燃える火の文字が見えた。

その文字を読むことで、エノクは天界のトーラーを知り、賢者になった。

賢者エノクは、やがて迎えに来たメルカバの戦車に乗って天界に上り、メタトロンになった。

メタトロンとモーゼについて、ユダヤ教にとって、メタトロン以上に重要な天使はいない。

このことは、モーゼの出エジプト(エジプト脱出)におけるメタトロンの保護と導き、シナイ山頂における十戒の授与という二つの偉業を知れば即座に理解できる。

以下は『ゾーハル』および『ヘブライ語エノク書』の伝承である。

出エジプト

(1)モーゼが、イスラエルの民をつれて、エジプトから脱出するとき、メタトロンは、彼らの先頭を火の柱となって進んだ。

ド・マンハル『ゾーハル』p140;『出エジプト記』13:17-22。

(2)メタトロンは、モーゼが率いるイスラエルの部隊に先立って進み、移動して彼らの後ろに行き、エジプトの陣とイスラエルの陣の間に割って入った。

『ゾーハル』p140;『出エジプト記』14:19。

(3)メタトロンは、後ろからエジプト軍が来たとき、モーゼたちのために、海を二つに分けて、道をつくった。

ド・マンハル『ゾーハル』p140;『出エジプト記』14:15-31。

 シナイ山頂

(1)モーゼがシナイ山に上った時、モーゼの前に現れ、モーゼの願いを聞き、そのすべてに答えたのは、メタトロンである。

このとき、メタトロンは十戒を授けるとともに、自らの名を明かした。

『ヘブライ語エノク書』15B, 48D:6-10;『出エジプト記』19-20。

イスラエルの民が荒れ野を見ると、主の栄光メタトロンが現れた。

『出エジプト記』16:10;メイヤー『カバラ』p272。

 モーゼ一行の定住先を確保する、主なる神はモーゼに次のように語った。

「見よ、わたしはあなた(=モーゼ)の前に使い(=メタトロン)を遣わして、あなたを道で守らせ、わたしの備えた場所に導かせる」

『出エジプト記』23:20-23;メイヤー『カバラ』p272

主なる神はモーゼに次のように語った。

「わたしは、あなた(=モーゼ)に先立って使い(=メタトロン)を遣わし、カナン人、アモリ人、ヘト人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人を追い出す。あなたは乳と蜜の流れる土地に上りなさい」。

『出エジプト記』33:2;メイヤー『カバラ』p272

 モーゼの杖となる、メタトロンは生と死を司る。

メタトロンはモーゼの杖であり、杖の一方には生を他方には死をつくりだす。

メタトロンは杖に化けるときと、蛇に化けるときがある。ド・マンハル『ゾーハル』p140;ダヴィドスン『天使の辞典』の「メタトロン」の項。

 メタトロンとノア、神が巨人族の血で汚れた大地を洪水で洗い流したとき、天使をノアのもとに遣わして警告したのはメタトロンであった。

ダヴィドスン『天使の辞典』の「メタトロン」の項。

メタトロンとダビデ王の盾、古いユダヤの魔術文書によれば、ダビデ王は不思議な盾を持っており、その盾は、魔術的な防御力を発揮した。

この盾は、メタトロンの名を示す星文字*がダビデ王のために盾のかたちをとったもので、盾には、六芒星✡とともに、「汝が戦いに出かけ、敵の攻撃を受けた時、この名(メタトロンの名)を唱えよ。

そうすれば、無傷でいられる」という言葉が刻まれている。

ショーレム『ユダヤ教におけるメシアの概念』p265

 *メタトロンの名を示す星文字 Vのかたちをしていて、三つの頂点は小さな円になっている。

その他の伝承について

メタトロンは、まぶしい真っ白で純粋な光に包まれて現れる。

シュワルツ『ガブリエルの楽園』の「一九世紀東欧の伝承」p202。

タルムード・カバラの伝承によれば、『創世記』32:23-33の暗い天使、『イザヤ書』21の見張り、同53の召使い、『出エジプト記』23:22の天使は、いずれもメタトロンをさしている。

旧約聖書の『詩篇』37:25、『イザヤ書』24:16は、メタトロンの言葉である。

ダヴィドスン『天使の辞典』の「メタトロン」の項。

カバラ、カバラでは、宇宙を四界に分ける。四界は、上から順に、アツィルト界(流出界)、ブリアー界(創造界)、イェツィッラー界(形成界)、アッシャー界(活動界)と言う。

メタトロンは、ブリアー界の主にしてブリアー界そのものである。

ここまでは、ユダヤ教のカバラすべてに共通である。

しかし、これを生命の木で説明しようとすると、流派により二つに分かれる。

その一、YHの秘儀(玉座の秘儀)、第一の流儀では、アツィルト界(流出界)をケテル、ブリアー界(創造界)をコクマーとビナー、イェツィッラー界(形成界)をケセド、ゲブラー、ティファレト、ネツァク、ホド、イェソド、アッシャー界(活動界)をマルクトに対応させる。

聖四文字*YHVHは、最初の文字ヨッドYをコクマー、二番目のヘーHをビナー、三番目のヴァウVをティファレト、最後のヘーHをマルクトに割り当てる。ブラヴァツキー『神智学用語集』の「聖四文字」

メタトロンは、ブリアー界の主にして、ブリアー界そのものなので、コクマーとビナーに対応する。コクマーは聖四文字のヨッドYに、ビナーはヘーHに対応しているので、メタトロンはYHを持つ。YHは、ヤホエルと読む。

ヤホエルは、メタトロンの最も重要な別名である⇒1.名前の「別名」。以上のことは、経典『ヘブライ語エノク書』に、次のように記されている。

 主なる神は、モーゼに次のように語った。「モーゼよ、わたし(=大ヤーウェ)は、わたしの使者{メタトロン}を、おまえの前に現し、おまえの道で、おまえを護らせ、わたしが用意した場所に、おまえを導かせる。

おまえは、その幻(=メタトロン)のことをよくおぼえておき、彼の声にしたがい、けっして逆らってはならない。彼は{別名をヤホエルYahoelと言い、}わたしの名{つまりYHVHのYとH}を{名前の内に}秘めているからだ。」『ヘブライ語エノク書』16(15B);『出エジプト記』23:20-21

ヨッドYとヘーHの合体により現れたYHすなわち、メタトロンは、生命の木の上で、コクマーからティファレトへとのびる小径とビナーからティファレトにのびる小径をつたってティファレトの上に現れる。

ティファレトは玉座なので、メタトロンはその名の通り、玉座の上に現れて*、全能者シャッダイ*になる*。

*聖四文字 せいよんもじ。〔ヘブライ語〕テトラグラマトンTetragrammaton。神の名を表す聖なる四文字YHVHのこと。ヤーウェと読む。

*メタトロンはその名の通り、玉座の上に現れて ⇒「1.名前の由来」の「字義2」;「12.カバラ」の「メルカバ神秘主義その1」の④

*全能者シャッダイ ⇒「5.位置付け」の「神の化身」

*ティファレトは玉座なので、メタトロンはその名の通り、玉座の上に現れて*、全能者シャッダイ*になる。

ミトラ教のクルド聖詩「悲嘆にくれる者の詩」Q1.5には、「無限の智慧を秘めた一なる神に讃えあれ! はじめ玉座だけがあった。

神は貴公子として玉座の上に現われ、世界の統治者になった。神ミトラは全知全能である」とある。

正典『天真弥勒大讃願経』。

クルド・イランの伝統では、ミトラの玉座とは太陽のことなので、太陽=ティファレト、ミトラ=メタトロンと置き換えると、YHの秘儀そのものになる。

その一の補足A ミトラの秘儀、聖四文字の三番目ヴァウVは、ティファレトに位置し、ミトラの秘儀を象徴する。

ここに、ケテルから神聖な火――ヘブライ文字シンShで象徴される――が降りると、YHShVはマルクトに降りて、四番目の文字ヘーHと結合し、YHShVHになる。YHShVHは、ヘブライ語で「イェシュア」、すなわちキリストを意味する。

キリストは、メタトロン(ミトラ)の化身であり、オフルミズド(ケセド)とアーリマン(ゲブラー)の対立により汚されたこの世(マルクト)を清める。

これこそ、大マニの奥義であり、東方ミトラ教による『ヨハネによる黙示録』1:1-18解釈である。ドジェリツェフ『オカルティズム百科』

この解釈は、『ゾーハル』に記されている次の一節と結び付けられている。

メタトロンは、天界のエデン(アイン・ソフ)から川のごとく流れ出し、地上のエデン(マルクト)を汚れから守るド・マンハル『ゾーハル』p138。

さらにまた、カルデアのカバラにおけるミトラスの秘儀ともつながっている。

その二、四界の秘儀、第二の流儀では、アツィルト界(流出界)、ブリアー界(創造界)、イェツィッラー界(形成界)、アッシャー界(活動界)のそれぞれに生命の木があるとする。

この場合、メタトロンはブリアー界の生命の木全体である。

この場合のメタトロンには、アダム・カドモン(天上のアダムの意)という別名がある。

メタトロンはブリアー界の主なので、ブリアー界の生命の木のケテルに位置付けられることもある。

この場合、残りのセフィロトには、ミカエル、ガブリエル、ラファエルなどの大天使が割り当てられる(下表参照)。

こちらの流儀では、YHの秘儀を十分に説明できないものの、メタトロン(ケテル)とミカエル(ティファレト)の配置には、YHの秘儀が反映されている。

メルカバの秘儀その一、カバラには、メルカバの秘儀(別名メタトロン神秘主義、玉座神秘主義)と呼ばれるものがある。

これは、エゼキエルにならって、メルカバの戦車に乗って最高天(アラボット天)に昇り、そこでメタトロンに会い、天地創造の秘密を親しく授かろうとするものである。

以下は、この秘儀のもとになっている『エゼキエル書』の一節である。

メタトロンは④に現れる。

① エゼキエルはカルデアの河畔で瞑想にふける

わたし(エゼキエル)は、ケバル川の河畔に住んでいた捕囚の人々の間にいたが、そのとき天が開かれ、わたしは神の顕現に接した。

それは、ヨヤキン王が捕囚となって第五年の、その月の五日のことであった。

カルデア(バビロニア)の地のケバル川の河畔で、主の言葉が祭司ブジの子エゼキエルに臨み、また、主の御手が彼の上に臨んだ。『エゼキエル書』1:1-3

② メルカバの戦車が現れる

わたしが見ていると、北の方から激しい風が大いなる雲を巻き起こし、火を発し、周囲に光を放ちながら吹いてくるではないか。

その中、つまりその火の中には、琥珀色の輝きのようなものがあった。

また、その中には、四つの生き物の姿があった。

その有様はこうであった。彼らは人間のようなものであった。それぞれが四つの顔を持ち、四つの翼をもっていた。

脚はまっすぐで、足の裏は子牛の足の裏に似ており、磨いた青銅が輝くように光を放っていた。

また、翼の下には四つの方向に人間の手があった。

四つとも、それぞれの顔と翼を持っていた。

翼は互いに触れ合っていた。それらは移動するとき向きを変えず、それぞれに顔の向いている方向に進んだ。

その顔は人間の顔のようであり、四つとも右に獅子の顔、左に牛の顔、そして四つとも後ろには鷲の顔を持っていた。

顔はそのようになっていた。

翼は上に向かって広げられ、二つは互いに触れ合い、他の二つは体を覆っていた。

それらにはそれぞれの顔の向いている方向に進み、霊の行かせるところへ進んで、移動するときに向きを変えることはなかった。

生き物の姿、彼らの有様は燃える炭火の輝くようであり、たいまつの輝くように生き物の間を行き巡っていた。

火は光り輝き、火から稲妻が出ていた。そしていきものもまた、稲妻の光るように出たり戻ったりしていた。『エゼキエル書』1:4-14

③ メルカバの戦車は天に昇る

私が生き物を見ていると、四つの顔を持つ生き物の傍らの地に一つの車輪が見えた。

それらの車輪のありさまと構造は、緑柱石のように輝いて、四つとも同じような姿をしていた。

その有様と構造は車輪の中にもう一つの車輪があるかのようであった。

それらが移動するとき、四つの方向のどちらにも進むことができ、移動するとき向きを変えることはなかった。

車輪の外枠は高く、恐ろしかった。

車輪の外枠には、四つとも周囲一面に目が付けられていた。

生き物が移動するとき、傍らの車輪も進み、生き物が地上から引き上げられる時、車輪も引き上げられた。『エゼキエル書』1:14-19

④ エゼキエルは玉座の上にメタトロンを見る

生き物の頭上にある大空の上に、サファイアのように見える玉座の形をしたものがあり、玉座のようなものの上には高く人間のように見える姿をしたものがあった。

腰のように見えるところから上は、コハク金が輝いているように私には見えた。

それは周りに燃え広がる火のように見えた。

腰のように見えるところから下は、火のように見え、周囲に光を放っていた。

周囲に光を放つさまは、雨の日の雲に現れる虹のように見えた。これが主の栄光の姿の有様であった。私はこれを見てひれ伏した。『エゼキエル書』1:26-28

生命の木を使ってこの瞑想修行を行う場合には、自分がマルクトに立っていると想像して、生命の木を上に昇って行き、コクマー=ビナーあるいはケテルにおいてメタトロンと神人合一の境地に入る。

この最高の境地において習う内容は、『スラブ語エノク書』に詳細に記されている。

メルカバの秘儀その二、修行者の意識が天界に昇り、そこでミトラに会って天地創造の秘密を親しく授かるというのは、ミトラの秘儀の一つのパターンである。

メルカバの秘儀が、クルド・イランから西に向かった流れとするなら、仏教における弥勒上生〔みろくじょうしょう〕の教えは、東に向かった流れと言える。

弥勒上生の教えとは、弥勒に会おうと願って修業を積むなら、死後、弥勒の住む都率天〔とそつてん〕に転生し、そこで弥勒から親しく教えを授かることができるという教えである。

いくら修業をしても、生きているうちに会うことはできず、死後の生まれ変わりを待たねばならないからである。

このちがいは、輪廻転生を前提とするかしないかの違いである。

このような差異があるにせよ、天上に昇って、そこで親しく教えに与かるという基本構造は同じである。

シーア派系のスーフィズムにも、この秘儀は生きている。

有名な経典としては、イブン・シーナーの『マホメットの天空飛行の書』がある。

ユダヤ教、ミトラ教、仏教、シーア派が、このようなかたちで秘儀を共有しているという事実は、普遍的な立場から宗教・神秘主義の研究・実践をしている者にとり意義深い。

近代エソテリシズム、メタトロンは、霊的な教師の原像(基本パターンあるいは鋳型)として登場する。

近代エソテリシズムの理論によれば、世界各地に伝わる伝説的な賢者・聖者はすべて、メタトロンの分霊あるいは化身である。

ギリシアのアポロとインドのクリシュナも、メタトロンの化身である。



 

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